吃音ノート

吃音および関連分野について考えます

吃音者は「自分の声を誰も聞いていない」と信じると吃音が出なくなる?

GIGAZINEニュース(2021.10.14)で、上記の研究結果が出たことが報じられた。
https://gigazine.net/news/20211011-adults-stutter-stop-private-speech/

science alertというサイトでは原文が紹介されている。
https://www.sciencealert.com/study-shows-adults-who-stutter-stop-if-they-think-no-one-is-listening
その情報元は、Journal of Fluency Disorder という流暢性障害に関する専門誌のようだ。
この専門誌は歴史があり、有名だ。

ところで、吃音のある成人は「自分の声を誰も聞いていない」と信じていると吃音が出なくなるということはどう解釈すべきだろう?
これに関連しそうなこととしては、吃音者は独り言では吃らないということも以前からいわれている。
私は独り言はあまりいわないし、まして吃りそうな言葉で独り言をいうことはない。
自宅で発音練習した時、吃りやすい言葉ではやはり吃ってしまうことが多かったが、これは自然に自発的に出てくる言葉ではないから、なるほど独り言ではない。
ともかく上記について、心理学者は対人恐怖や緊張が吃音を引き起こすと解釈するかも知れない。
しかし私の体験では対人恐怖や緊張といえるほどのものは感じていない。
ではどう解釈すべきか?

人に対して話す時、相手に聴こえるように話す訳だが、その時、聴覚を大いに働かせながら話す。 *注1
相手に自分の声がどう聴こえているかを意識しながら話す。
発話運動は本来は筋運動感覚に基づいて遂行されるが、吃音者は聴覚に過大なウェイトをおいて話す。
発話運動は本来は一気果断に遂行されるものだが、吃音者は発話運動そのものよりも、聴覚にウェイトをおいて話すのではないだろうか。
発達した吃音者は聴覚によって発話運動の各運動部分の組み合わせのタイミングの失敗、とくに母音がでるタイミングの失敗を過敏に感知する。
それで吃りやすくなるのではないかと私は思っている。

吃音者は自分の話し声が聞こえない状態で話すと吃らないということも以前から知られており、これはマスキング効果といわれている。
聴覚が働かない状態で話すと吃らない。
それは聴覚に阻害されずに筋運動感覚に基づいて話しているということだと思うが、この時は吃らない。
表題の研究結果はマスキング効果と関連していると思う。

また、ささやき声では吃らないということとも関連していると思う。

 

*注1 ここでいう聴覚は必ずしも大脳の聴覚野の働きをさしているとは限らない。
    小脳にもいち早く聴覚情報が入っていると読んだことがある。
    その聴覚情報はタイミング制御に利用されているのかも知れない。